家事・仕事(家業)手伝をしてきた妻・嫁に相続の寄与分は認められる?

今回は、寄与分について、家事や仕事の手伝いをしてきた夫の配偶者に寄与分が認められるか、という点について解説します。

なお、配偶者が夫の介護をした、というケースは介護型として別異の検討が必要ですので、本稿の対象外です。

参照 親を看護・介護した。相続で寄与分として有利になるか。裁判例は?

専業主婦として家事従事のみの場合

家事従事してきた配偶者に寄与分は認められるでしょうか。

家事労働に専業する場合に寄与分は認められるか

女性の社会進出が進んできたとはいえ、現時点においても、専業主婦として、家庭をささえる形の家庭は主要な家族形態の一つです。

子どもたちが親元から独立し、女性が専業主婦として家庭を支え、働く夫を支えていたという場合に、女性の家事労働を寄与分として構成し、相続時に多くの取り分を貰える、という構成をとれないかがここでの問題です。

結論(通常は否定される)

回答からいうと、家事に従事していた、というだけでは、プラスの取り分である寄与分が認められるということは、家庭裁判所の判断としては通常ありません。

配偶者には、夫婦生活に対する協力扶助義務があり、専業主婦として家事労働を行っていたということ自体は往々にして、協力扶助義務の履行の範囲内と考えられるためです。

この点、寄与分を認めるか否かは第一義的には法定相続人間で決めるべきことですから、遺産分割協議に際して、専業主婦としての寄与分につき、他の共同相続人がOKをだせばもちろん、これを肯定してよいですし、他の共同相続人の理解が得られるなら、説得することもありです。

ただ、その寄与分を認めるか認めないか、という点で意見が先鋭的に対立した時、家庭裁判所に判断を求めても、寄与分を認めるという判断がなされることは通常考えにくいです。

【参照】 東京家庭裁判所昭和41年9月8日審判
遺産に対する寄与分について考えると、申立人が法定相続分において考慮されていると考えられる通常妻としての協力以上にどれほどの労働により遺産に寄与したか、その労働の数量及びその労働に対する価額を算定すべき根拠について何らの資料がないから、申立人の寄与分についてはこれを算定することができない

 

家事労働だけでなく、家業にも従事した場合

では、一歩進んで、家事労働だけでなく、農家の農作業や被相続人が経営していた事業を家業として支えていた場合はどうでしょうか。

この場合、単に家事労働を行っていた場合よりも、寄与分が認められるケースが多いです。ただ、当然に寄与分が認められるわけではありません。次のような要素が斟酌されます。

  • 無償性
    家業について、対価が支払われていたか否かという要素です。。対価がなかった場合、寄与分が認められやすくなります。
  • 継続性
    家業につき継続的に従事していたか、という要素です。家業への従事が長期間にわたると寄与分が認められやすくなります。
  • 専従性
    もっぱらその家業に努めていたか否か、という要素です。専従性が認められるほど、寄与分が認められやすくなります。

無償性について

寄与分の有無の判断に際しては相続人が、無償で家事・家業に従事していたか否かが重要な要素の一つとなります。

家事・家業に対価があった場合、共同相続人の家事・家業の貢献に対し、すでに清算がなされているとの評価を与えることが可能であるのに対し、対価がなかった場合、共同相続人の家事・家業につき、清算がなされておらず、相続時にこれを清算すべき、との価値判断が働くからです。

もっとも、相続人の一人が行った多大な貢献に対して、わずかな謝礼が支払われているにすぎないといった場合、必ずしも「無償性」の要素が否定されるわけではありません。

また、仮に、対価とみるべき何らかの給付を相続人が受け取っていたとしても、それが相続人の貢献のレベル・程度に満たない場合にはなお、寄与分は肯定されえます。

【参考】 平成4年9月28日福岡家庭裁判所久留米支部審判
Xは、昭和46年ころから家業の薬局経営を手伝い、昭和56年からはYに代わって経営の中心となり、昭和60年に薬局を会社組織にした後も、店舗を新築するなどして経営規模を拡大した。
その間、Xが無報酬又はこれに近い状態で事業に従事したとはいえないが、それでも、Xは、薬局経営のみが収入の途であった秀次の遺産の維持又は増加に特別の寄与貢献を相当程度したものと解せられる。

この審判は、配偶者の貢献について判断したものではなく、子の家業への貢献について判断したものですが、無償性に関する裁判所の考え方を把握するうえで参考になります。

継続性について

また、継続性についても、重要な判断要素となります。

一時的・短期的な家事従事・家業従事よりも、長期にわたっての従事のほうが、被相続人への貢献は大きいといえるからです。

【参考】 昭和61年7月14日前橋家庭裁判所高崎支部審判
申立人Aは、結婚後被相続人とともに長年にわたり養豚業に従事し、これにより被相続人の主要な遺産である本件土地・建物の維持、形成につき著しい寄与をなしたもので、それは通常の夫婦の協力扶助の程度を超えた特別の寄与があつたものというべきである…。

ここでは、長年にわたって、養豚業に従事したことが評価の対象とされています。

 

専従性について

さらに専従性についても重要な要素となります。

もっとも、家業に専従していたとの事実は、貢献の程度を示す一つの評価にすぎませんから、相続人が他の労務に努めていたとしても、それだけで、寄与分が否定されるものではありません。

あくまでも、相続人の遺産の維持・増加に貢献したといえるか、が判断の分かれ目になります。

【参照】:大坂高裁平成27年10月6日決定(意味内容を変えない範囲で改変・省略)
相手方Bの勤務形態は、基本的には、日勤(午前8時から午後8時まで)、休み(午後8時から翌日の午後8時まで)、夜勤(午後8時から翌日の午前8時まで)、休み(午前8時から翌日の午前8時まで)のサイクルを繰り返すものである。相手方Bは、昭和55年ころ以降、休日の昼間には可能なかぎり農作業を手伝い、繁忙期には休暇を取って農作業を手伝っていた。被相続人が目録記載A2ないし7の各土地をみかん畑として維持することができたのは、相手方Bが昭和55年ころから農業に従事していたことによるものであると推認される。したがって、相手方Bには、みかん畑を維持することにより遺産の価値の減少を防いだ寄与があるといえ、農業の収支が赤字であったことは上記判断を左右するものではない。

家事・家業従事型の寄与分の程度

家事・家業型の寄与分があると認定される場合、その金額はどうなるのでしょうか。これにはいくつかの方法が採用されています。

総合考慮して遺産に対する割合を定める方法

相続人の貢献における労務の種類や程度、同居の有無、対価性の有無・残余財産の財産額・種類などを総合的に考慮して裁判所が、寄与分の額を遺産の〇%あるいは、1割、などと割合で決める形で算定する方法です。

報酬額を乗じる方法

貢献をした相続人に月額付与すべき報酬に年月を乗じて、積算する方法です。ただし、一定の対価を得ていた、同居していたという場合、当該対価や、同居期間中に要したであろう生活費は計算から控除される傾向にあります。

特定の財産の割合から判断する方法

一定の財産の形成維持に努めた、といった形で貢献を評価する場合、当該財産の〇%という形で評価されることがあります。
たとえば、相続人Aが、被相続人の遺産である「農地」につき、これを継続管理してきた結果、当該農地の資産性が維持されている、といった場合、当該農地の価値の何割かを寄与分の額として認定する方法です。

 

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