今回は、相続廃除事由としての「著しい非行」についてです。
参照:相続欠格とは
著しい非行とは
「著しい非行」は、相続権を失わせるのが相当と言われる程度の非違行為を指します。
たとえば、被相続人から度重ねて無心する一方で、被相続人に対する恩をあだで返すような行為を行っている、重大犯罪を繰り返しており、被相続人やその家族に迷惑を掛けている、などの事情が挙げられます。
1回に限り、軽微な違法行為を行ったからといって「著しい非行」に該当することは有りません。
種々の表現ありますが、「著しい非行」といえるためには、家族間の共同関係を破壊する程度の行為があったと言えること、つまり重大な非違行為をあったといえることが必要です。
廃除を認めた裁判例
裁判所では、どんなケースで「著しい非行」が認定されているのでしょうか。肯定例を見ていきます。
大坂高裁平成15年3月27日決定
大坂高裁平成17年3月27日決定は、次のような事情を認定して、「著しい非行」があったものと評価しています。経済的な虐待にも似た事案です。
【認定された事実等】
- 相手方は、自己が管理する被相続人の多額の財産(マンションの賃料)を、「競馬ビジネス」などという事業に投資するとして、競馬のレースにつぎ込んだものである。
- 被相続人は、平成3年4月以降、自己の唯一の収入であるマンションの賃料を、会社の事業資金として使用することはあらかじめ許容していたものであるが、その賃料を賭け事(競馬)に投じることを許容していたはずがなく、相手方の行為は、被相続人の財産を自己のために横領した行為といわなければならない
- 相手方の行為は、客観的には、被相続人の多額の財産をギャンブルにつぎ込んでこれを減少させた行為と評価するしかなく、その結果、被相続人をして、自宅の売却までせざるをえない状況に追い込んだものである。
- 相手方は、被相続人から会社の取締役を解任されたことを不満に思い、虚偽の金銭消費賃借契約や賃貸借契約を作出して民事紛争を惹き起こし、訴訟になった後も被相続人と敵対する不正な証言を行っている。被相続人がこれら訴訟への対応のため、高齢であるにもかかわらず、多大の心労を背負ったことは間違いがないところである。
裁判所は、上記のような認定の上、これらの相手方の一連の行動は、民法892条所定の「著しい非行」に該当すると判断しています。
福島家庭裁判所平成19年10月31日審判
福島家庭裁判所平成19年10月31日審判は、長期にわたって事実上の縁切り状態となっていた事案です。
【認定された事実等】
- 相続人が70歳を超えた高齢であり、介護が必要な状態であったにもかかわらず、相手方は、被相続人の介護を妻に任せたまま出奔した。
- 相手方は、被相続人など親族には全く相談しないまま、父(被相続人の夫)から相続した田3筆約4588平方メートルを他人に売却した。
- 相手方は、相手方の異母兄Hに対し、アパートを借りる保証人になってもらいたい旨手紙を出したことより所在が判明したが、連絡が付かない状態でああった。
- 相手方は、父(被相続人の夫)から相続した田畑を被相続人や親族らに知らせないまま売却し、妻との離婚後、被相続人や子らに自らの所在を明らかにせず、扶養料も全く支払わなかった。
裁判所は、上記のような事情を認定して、相手方の行為は、悪意の遺棄に該当するとともに相続的共同関係を破壊するに足りる「著しい非行」に該当する旨判断しました。
京都家庭裁判所平成20年2月28日審判
京都家庭裁判所平成20年2月28日審判の事案は、相手方が犯罪や交通事故などで被相続人に強度の迷惑をかけたとの評価がなされてた事案です。
【認定された事実等】
- 相手方は窃盗等により何度も服役し、現在も刑事施設に収容中である
- このほかにも交通事故を繰り返したり消費者金融から借金を重ねたりしながら、賠償や返済をほとんど行わなかった。このため、申立人をして被害者らへの謝罪と被害弁償や借金返済等に努めさせ、これにより、申立人に対し多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきた。
- 相手方の窃盗等の被害弁償や借金返済を行わなかったことにより、申立人に被害者らへの謝罪、被害弁償及び借金返済等、多大の精神的苦痛と多額の経済的負担を強いてきた
同審判はは、上記のように述べて著しい非行を認定した上で、「これまでの経過や事情に加えて、相手方が自身の行状につき申立人にも責任の一端があるかの如く述べたうえ多額の手切れ金を要求しており、申立人がこれに応じる意思がないと述べていることからみて、両名の親子関係に改善の見込みがあるとはいい難い」などとして、相手方を排除するのが相当としています。
東京高等裁判所平成23年5月9日決定
東京高裁平成23年5月9日決定は、被相続人の意に反して執拗な行為・言動が排除の理由となった事案です。
【認定された事実等】
- 被相続人の養子である抗告人が、被相続人が10年近く入院及び手術を繰り返していることを知りながら、居住先の外国から年1回程度帰国して小遣いとして50万円から100万円をもらっては外国に戻るという生活を10年以上続けている。他方で、被相続人の面倒をみることはなかった
- 被相続人から提起された離縁訴訟等について、代理人を依頼までしていながら、委任状を約4か月以上にもわたって裁判所に提出しないで訴訟の引き延ばしを図った
- 相手方は、被相続人が原審相手方に対する本件離縁訴訟を提起したことを知った後、外国から毎日のように被相続人に電話をかけては、毎回5~6時間にもわたって自らの言い分や非難を一方的に述べ、被相続にが「いまは体調が悪いから。」とか、「頭が痛くなるからやめてほしい。」などと訴えるのも意に介さず、離縁訴訟等を取り下げるよう執拗に迫ることを繰り返した。
同決定は、これらの事情のもとにおいては、抗告人に民法892条にいう「著しい非行」があったものとして、推定相続人の廃除を認めるのが相当であると判断しています。