相続欠格とは

今回は、相続欠格についてです。なお、相続欠格と似て非なる相続廃除については次の記事をご参照ください。

参照:相続廃除とは~法定相続人を相続手続から排除する~

相続欠格とは

相続欠格は、ある一定の行為をした(あるいはしなかった)相続人が相続人たる地位を失うことを指します。

相続欠格に該当する場合、当該相続人は、被相続人の財産を承継しません。遺留分権者であった場合であっても、相続できません。

参照:遺留分

【補足】
一旦相続欠格となると、その後、相続権を回復させることはできません(相続排除において取り消しが認められるのと異なる。但し、宥恕のケースに月広島家裁呉支部平成22年10月5日審判参照)。また、遺言書で遺贈をしてもらうこともできなくなると考えられています。他方で、ケースとしてはかなり少ないケースではありますが、被相続人が生前に欠格者と協議し、財産を譲渡すること(生前贈与)は可能です。

相続欠格か否かは被相続人毎に判断する。

相続欠格は、被相続人ごとに判断をします。

たとえば、Aさん夫婦のうち、「夫」であるAさんとの関係で、Bさんが相続欠格になった場合、BさんはAさんを相続しません。

他方で、Aさん夫婦の「妻」を被相続人とする手続では、Bさんが夫との関係で相続欠格となっていたことは切り分けて考えます。

Aさん夫婦の夫との関係でBさんは、Aさん夫婦の夫を被相続人とする手続においては、相続欠格ではあるが、Aさん夫婦の妻を被相続人については、なお相続権を有するのです。

相続欠格と代襲相続について

ある者が相続欠格により相続人の地位を失った場合でも、代襲相続は生じえます。

たとえば、被相続人Aさんにつき、その子のBさんが相続欠格により地位を失ったとします。

この場合でも、Bさんの子(Aさんから見て孫)は、代襲相続によってAさんを相続し得ます。

 

相続欠格となる5つの要件

どんな場合に、相続欠格となるか、については、民法891条が規定しています。

民法891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。

  1. 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  2. 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
  3. 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
  4. 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

以下、各号の規定に沿って簡単に見ていきます。

故意に生命を脅かす罪を犯したこと

欠格事由の一つ目は、故意に生命を脅かす罪を犯したことです。

条文上は、第1号に「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」と規定されています。

刑法典で言う殺人罪や殺人未遂罪がこれに該当しますが、そのほか、たとえば保護責任者遺棄致死罪なども該当します。

他方で、「故意」であることを要しますので、過失犯はこれに含まれません。たとえば、車に乗っていて、自身の過失による交通事故で同乗者が他界した場合などは過失によるものですので、該当しないこととなります。

殺害につき告訴・告発をしなかったこと

欠格事由の二つ目は、被相続人の殺害に月、告訴・告発をしなかったことです。

条文上は、「被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者」と規定されています。

ただし、被相続人が殺害されたことを知っていたとしても、物事の善し悪しが分からない程度の認知症に至っている場合や、幼児等の場合は、告訴・告発しなかったとしても、相続権を失うことはありません。

詐欺・強迫による遺言妨害

欠格事由の3つめは、詐欺や強迫によって遺言の作成や撤回・変更等を妨げたことです。

条文上は、「被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」とされています。

自由意思に基づく遺言を妨げるという非違行為が、欠格理由となります。

詐欺・強迫による遺言への干渉

欠格事由の4つめは、詐欺強迫により、被相続人の遺言の作成・撤回・取消・変更に干渉した場合です。

条文上は、「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」と規定されています。

非違行為により被相続人の自由意思に干渉したことが欠格理由となります。

遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿

欠格事由の5つめは、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿です。

条文上は、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」と規定されています。

たとえば、被相続人の遺言書の遺言の内容が自身に不利だ、という動機で、新たに遺言書を作ったり、遺言書を改ざんしたり、あるいは、処分してしまった場合などがこれに該当します。

【最判平成9年1月28日判決】
最高裁平成9年1月28日判決は、上記第5号につき、次のように判示しています。この最高裁に従えば、単に、遺言書を破棄又は隠匿したというだけでは、相続欠格には当たらず、その内心も問われることとなります。遺言書を相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条五号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(最高裁昭和五五年(オ)第五九六号同五六年四月三日第二小法廷判決・民集三五巻三号四三一頁参照)、遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同条五号の趣旨に沿わないからである。

 

相続欠格事由の有無につき、裁判が必要となることも

相続欠格事由は、被相続人の死亡後に問題となります。

被相続人の意思決定や裁判所の手続によって事前に定まるものではないので、欠格者に該当しそうなものがいる場合、遺産分割協議に際して、トラブルが先鋭化します。

「欠格者」に該当するか否かについて、争いがなければ格別、争いがある場合には、軽々に遺産分割協議を進めることはできません。

ある者に相続欠格事由があるか否かが争いになる場合、往々にして、相続権の存否を確認する裁判等で、欠格事由の有無につき、裁判所の判断を仰ぐことになります。

 

相続欠格と遺産分割協議のやりなおし

最後に相続欠格と遺産分割協議についてです。

相続欠格が見過ごされていた場合

相続欠格であることが見過ごされて遺産分割協議は有効でしょうか。

相続欠格者であることを看過して、相続人と取り扱って行った遺産分割協議は、相続人でない第三者が参加した遺産分割協議と扱われます。

この場合、当該遺産分割協議は、ケースごとに一部ないし全部が無効なものと扱われます。

この場合、ケースに応じて、遺産分割協議のやりなおしが必要です。

相続開始後に欠格事由が生じた場合

また、相続が開始したあと、欠格事由が生じた場合はどうでしょうか。

この場合、欠格者は初めから相続人ではなかった、という取り扱いになります。つまり欠格者を除いて遺産分割協議がなされてなければなりません。

この場合も、ケース・手続の進捗によっては、相続手続をゼロからやりなおす必要があります。

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