相続欠格者の宥恕が認められた事例~2つの裁判例~

今回は、相続欠格と宥恕についてです。

相続欠格には取り消しは無い。

相続欠格は、推定相続人が遺言書を偽造するなどした結果、相続人の地位を失うことを言います。

相続欠格の場合、相続廃除と異なって、一旦相続欠格となってしまうと、これを相続人が「取り消す」という手続はありません。

民法に、「相続欠格者」に一旦該当した者について、事後的にこれを「相続欠格者」ではないこととするための規定が存在しないのです。

参照:相続廃除とは~法定相続人を相続手続から排除する~

参照:相続欠格とは

宥恕(ゆうじょ)の可能性はありうる。

上記のように、相続欠格には、取消という概念が民法上ありません。

しかし、裁判例では、一旦相続欠格になってしまった者につき、被相続人がこれを宥恕する(許す)ことによって、一旦発生した相続欠格の効果を否定することは可能という解釈が示されることがあります。

宥恕が認められると、一旦欠格者であった者も、相続人たる地位を回復することになります。

宥恕が認められた事例

宥恕が認められた事例として、裁判例を二つ紹介します。

一つは、東京地判平成27年2月10日判決です。

裁判例➀ 東京地方裁判所平成27年2月10日判決

この判決は、欠格事由の存否についての判断は避けた上で、相続欠格事由該当性が仮に認められたとしても、宥恕によって、相続欠格の効果が消滅するので、本件において、被告は、被相続人の相続人たる地位を有する、旨判示しています。相続欠格該当性の判断を一旦措いて、「宥恕」の判断をしている点で特徴的です。判示の要旨はつぎのとおり。

【判断】

被告に相続欠格事由の該当性が認められたとしても、被相続人が、相続人の相続欠格事由発生後、その相続人を宥恕し、その相続人に対し資格を認める意思を表示していた場合には、相続欠格の効果が消滅すると解するのが相当である。
次の各事情によれば、亡Aが、本件殺害行為後、被告を宥恕し、相続人としての資格を有することを認める旨の意思を表示したことは明らかであるから、被告に相続欠格事由の該当性が認められたとしても、被告の相続欠格の効果は消滅したといえる。
  • 〈1〉亡Aは、本件殺害行為に係る刑事裁判において、被告の情状証人として出廷したこと
  • 〈2〉亡Aは、服役中の被告と面会し、金銭の差し入れを行い、被告に対し多数の手紙を送付している上に、その中には被告が亡Aの遺産を相続することを前提とする記載をした手紙があること
  • 〈3〉亡Aは、平成22年12月30日以降、5回に渡り、1年に1度、各110万円の生前贈与を行っており、これらの生前贈与は、金額及び時期に照らし、被告による亡Aの相続に際して、被告が負担する相続税額を減らすという目的が含まれていることが明らかであること
  • 〈4〉亡Aは、平成20年9月24日、Aを契約者兼被保険者、被告を死亡保険金受取人とする生命保険契約に加入したこと
  • 〈5〉亡Aは、平成25年8月20日、亡Aを契約者兼委託者、被告を元本及び収益の受益者とする特定障害者扶養信託契約(特定贈与信託)を締結しており、これは被告が負担する相続税額を減らす目的であることがうかがわれること
  • 〈6〉亡Aは、被告が仮釈放された平成24年2月22日以降、亡Aが死亡する平成26年5月20日までの間、被告と同居していたこと

裁判例➁ 広島家庭裁判所呉支部平成22年10月5日審判

この事案は、相手方Fが「故意に相続について先順位若しくは同順位にある者」を殺害したことを理由に、Fが被相続にGの相続欠格者に該当すると争われた事案です。

【判断】

以下のような認定事実によれば、被相続人Gは、遅くとも相手方Fが上記の刑務所に服役したころには、相手方Fに対し、相手方Fを宥恕し、その相続人としての資格を有することを認める旨の意思表示をしたものと推認される。したがって、相手方Fは、被相続人Gの相続人としての資格を有するといえる。
  • 相手方Fは、昭和32年(小学1年生時)、交通事故に遭い、右脚の膝から下の部分を失い、義足を使用して歩行することを余儀なくされるようになり、読み書きの能力が不十分である(特に漢字の習得がほとんどできていない。)など知的能力もやや劣る状態となったこと、
  • Jは、上記のような障害を持つ相手方Fを無視したり、馬鹿にしたりするような態度をとったりしたことから、相手方Fは、Jに憎しみを覚えるようになり、言い争いもたびたびあったこと、
  • そのような経過を経た後の平成15年×月×日、相手方Fは、酒に酔ったJから、「親父が死んでわれが死ぬば、最低の葬式をして、残った金はわしが使う。」などと言われて激高し、Jをナイフで何回も突き刺すなどして殺害するに至ったこと、
  • 被相続人Gは、相手方Fが被相続人G経営の呉服店を約33年間にわたり手伝ってきたことを評価していた上、上記事件についてはJにも非があったと思い、刑事裁判においては、相手方Fに寛大な刑が下されることを求め、また、服役後は、何回か刑務所を訪ね、障害を持つ相手方Fの出所後の生活を案じ、「心配ないから。」と話すなどしたこと
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