前回、次の記事で、葬儀費用については、いったん法定相続人の一人が支出した場合に、他の法定相続人にも、法定相続分にしたがって、負担をもとめることができる、という考え方を示しました。
ただ、実際の葬儀費用の負担の場面では、支出費用のみならず、香典という受け取るお金も存在します。
そこで、今回は葬儀費用の負担をほかの法定相続人に求める場合に、香典がどう扱われるか、という点を見てみたいと思います。
葬儀費用の負担
葬儀費用の負担につき、東京地方裁判所令和4年11月25日の判断枠組に従えば、概して次のとおりとなります。
この判決の結論は、概していえば次の通りとなります。
- 第一次的な負担
遺言や法定相続人の合意があるときはその内容による - 第二次的な負担
遺言や法定相続人の合意がないときは、特段の事情がない限り葬儀費用は相続財産の負担とするのが相当 - 第三次的な負担
葬儀費用を相続財産の負担とすることができないとき、費用の負担額は、各法定相続分に従って定めることとするのが相当
今回、説明の対象とするのは、上記の第三次的な負担、すなわち、葬儀費用の負担額を各法定相続分にしたがって決めることとなる場合に、香典はどのように扱われるか、という点です。お布施や戒名代と併せて考えます。
設例・裁判例
たとえば、被相続人の法定相続人として子がAさん、Bさんの二人がいたとします(法定相続分は2分の1ずつ)。
Aさんは被相続人の葬儀のため100万円、お布施として20万円、戒名代として30万円を支払ったとします。他方で、香典として80万円を受け取り、香典返しで20万円を支出した、こういったケースを考えてみます。
支出項目
設例では、Aさんが支出したものは、つぎの4つです。
- 葬儀費用 100万円
- 戒名代 30万円
- お布施 20万円
- 香典返し 20万円
収益項目
他方で、Aさんが取得したのは次の二つです。
- 香典 75万円
- 葬祭費 5万円
清算方法
上記東京地方裁判所令和4年11月25日の考え方に従い、葬儀費用などを法定相続分の通りに相続人が葬儀費用などを負担するとすると、葬儀費用、戒名代、お布施の150万円に2分の1を乗じた75万円が各人の負担部分ということになります。
もっとも、Aさんは香典を受け取っており、葬儀費用を各相続人の負担とするならば、Aさんが国民健康保険から受け取った5万円や香典75万円も加味しないとかえって公平性をかきます。
そして、香典を加味するのであれば、次に、香典返しの費用も加味しなければ、バランスを失します。
そこで上記のようなケースでは、葬儀費用と香典返しに要した費用の合計額(170万円)から、受け取った香典・葬祭費の額(80万円)を控除し、残90万円に2分の1を乗じた金額を双方の負担とすることが考えられます。
Aさんがすべての費用を支払い、全ての香典を受け取っている場合、Aさんはその2分の1である45万円をBさんに請求できる、と考えるわけです。
香典の清算についてはもろもろの考え方がありえるところですが、参考になる考え方の一つです。
東京地方裁判所令和4年11月25日判決の具体的結論
以下、東京地方裁判所令和4年11月25日判決の引用です。なお、原告・被告ともに法定相続人(相続分2分の1)です。
(1) 原告が本件被相続人の葬儀に関して支出した金額は、前提事実(3)ア及び証拠(甲6~9、17)によれば、原告が本件葬儀会社に対して支払った葬儀費用123万0158円、お布施代及び院号代として支払った30万円、香典返し代として支払った26万7986円(本件葬儀会社からの返金を差し引いた後の金額)の合計179万8144円と認められる。
他方、原告が本件被相続人の葬儀において香典として受領した金額は、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、76万7000円(Eからの香典1万円を含む乙1記載の金額)に1万円(乙2記載の令和3年2月22日のFからの香典)を加えた77万7000円と認めることができる。また、原告は、国民健康保険から本件被相続人に係る葬祭費として3万円を受領したものと認められる(前提事実(3)ア)。
したがって、本件被相続人に係る葬儀費用は、収支合計99万1144円と認められる。
(2) そして、上記1によれば、被告は、上記(1)の99万1144円のうち、その2分の1の金額である49万5572円を負担すべきものと認められるところ、現時点においては、上記(1)の葬儀費用の全額を原告が支出している状況にあるものと認められる(前提事実(3)ア)。
したがって、被告は、原告に対し、不当利得に基づき、本件被相続人に係る葬儀費用のうち被告の負担額49万5572円及びその遅延損害金(起算日は、訴状送達日の翌日である令和3年8月3日、利率は民法所定の年3%の割合)を支払う義務があるものと認められる。