今回は、相続に関連するトラブルの一つとして、葬儀費用の負担者に関し説明いたします。
前提として、葬儀業者との関係では、民法上の契約によって負担者がきまります(葬儀を依頼した者が葬儀社に支払う)。葬儀業者としては、契約をした人に支払え、と言える、ということです。
他方で、今回解説するテーマは、この場面ではなく、たとえば、葬儀業者に対して、法定相続人などのだれか一人が支払った場合に、他の法定相続人にその負担や分担を求められないのか、などといった点です。
喪主負担?施主負担?
葬儀費用、だれが負担するのか、という点については、民法その他の法律に定めがありません。
しいて言えば、民法には、「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。」という規定がありますが、この規定から結論を導くことはできません。
この点、インターネットなどでは、喪主が負担する場合が多いと説明されていますが、これは、「喪主負担」ということで遺族らの間で話がついた場合であり、そもそも喪主負担とする、という協議ができなかった場合にまで妥当するものではないように思われます。
前期のように、喪主負担・施主負担かは必ずしも法律で決まっていないので、こうした話し合いができなかった場合、葬儀費用を最終的にだれが負担するか、といった問題が先鋭化します。
相続財産の負担?
また、実社会においては、葬儀費用を相続財産(遺産)から支出し、これに香典の残額などがあればこれを加えて、残遺産を分割する、というケースもしばしばあります。
こうしたケースも、葬儀費用を相続財産から支出することなどの点につき、遺産が多額にあり、かつ葬儀費用を遺産から支出することについて、相続人間で協議ができた場合であろうと思われます。
しかし、こうした協議ができない場合や、遺産の金額よりも葬儀費用のほうが金額が大きいといった場合、やはり、葬儀費用をだれが最終的に負担するのか、といった問題は残ります。
参考裁判例(東京地判令和4年11月25日判決)
上記のような葬儀費用の負担者について参考になるのが、東京地判令和4年11月25日判決です。
葬儀費用を最終的にだれが負担するのかがもないとなったケースにおいて、つぎのような一般論を述べた上、個別事案の結論においても葬儀費用は兄弟2分の1ずつの負担としています。
判決の結論の概要
この判決の結論は、概していえば次の通りとなります。
- 第一次的な負担
遺言や法定相続人の合意があるときはその内容による - 第二次的な負担
遺言や法定相続人の合意がないときは、特段の事情がない限り葬儀費用は相続財産の負担とするのが相当 - 第三次的な負担
葬儀費用を相続財産の負担とすることができないとき、費用の負担額は、各法定相続分に従って定めることとするのが相当
この考え方に従えば、遺言もなく、葬儀費用を遺産から支出できない場合、葬儀費用は、原則的には法定相続分にしたがって負担をしていくことになります。
そのため、この考え方に従えば、たとえば、兄弟の一人が、葬儀費用をいったん全部支出した場合、法定相続分のしたがって、他の兄弟にその分担を求めることも可能と考えられます。
上記葬儀費用の負担に関する東京地判の考え方は、葬儀費用の負担者に関する一つの見解をしめしたものです。
これとは別異の判断をした裁判例(葬儀主催者の負担とする例)もありますので、ご留意ください。
判決内容(判断枠組に関する部分)
以下、東京地判令和4年11月25日判決文の引用です。
ア 葬儀費用の負担に関して、葬儀を執り行うことを委託した葬儀業者との関係において葬儀費用の支払債務を負うのは、当該葬儀業者と契約を締結した当事者(相続人に限られない。)である。
そうすると、葬儀費用を支出した者が当該死者の相続人らに対して同葬儀費用の償還請求をする場合には、本来的には事務管理に基づく費用償還請求などとして構成するのが通常であると考えられる。
イ もっとも、葬儀は、被相続人の死亡時に近接した時期において、死者である被相続人を弔うべく、慣習上、当然に執り行われるものであり、葬儀に要する費用は、当該被相続人に係る相続と密接関連するものであることなどに鑑みると、被相続人の葬儀に関する費用が発生した場合には、上記アとは別に、解釈上、その最終的な負担者を定めることも十分に可能であると考えられ、相続財産負担、相続人負担、喪主負担などといった考え方があり得るところである(甲11~16)。
ウ まず、被相続人の意思として遺言により葬儀費用の負担に関して定められ場合や、相続人間で葬儀費用の負担に関する合意をした場合には、これらの内容に従って負担するのが相当である。
もっとも、本件においては、本件被相続人の作成した遺言が存在しているものとは認められず(前提事実(1)イ)、また、原告本人及び被告本人の陳述・供述、その他本件全証拠によっても、原被告間において、本件被相続人の葬儀に係る費用の負担に関する合意が成立したものと認めることはできない。
エ 次に、上記ウのような被相続人の遺言及び相続人間の合意が存在せず、葬儀費用の負担者及び負担額等が判然としない場合においては、特段の事情がない限り、相続財産の負担とするのが相当である。
すなわち、被相続人が死亡時に財産を残している場合には、その自身の財産(相続財産)から葬儀費用を支出することを想定しているものと考えることができ、また、そのように取り扱うのが我が国における社会通念に合致するものと考えられ、かつ、現にそのように取り扱われることが通常であると考えられる。
さらに、葬式の費用については、その相当額の範囲内において、債務者の総財産(相続財産)の上に先取特権が存在するものと定められており(民法306条3号、309条1項)、これは資力が十分ではない者においても葬儀を執り行うことができるよう、公益的な観点から、相続財産を担保とすることを認めたものと考えられるが、上記で述べたとおりの我が国における社会通念を背景にしているものと考えられる。
他方で、被相続人の葬儀は、基本的には喪主が執り行うものであるため、時に相続人らの意向や信念、経済的事情、その他各種の都合とは必ずしも合致しないこともあり得る。そうすると、葬儀費用の負担については、各相続人において著しい不利益や不公平を生じさせるなどといった特段の事情がない限り、相当額の範囲内において、「相続財産に関する費用」として相続財産から支出する(民法885条)ことができるものとするのが相当であり、相続人らの合意により、遺産分割協議において精算することができる。
また、相続財産から葬儀費用を支出することにつき、相続人ら間において合意に至ることができず、遺産分割協議において精算する方法がとり得ない場合には、民事訴訟により、相続人らに対して、不当利得として、当該相続人が負担すべき金額を請求することができ、その場合の費用の負担額は、各法定相続分に従って定めることとするのが公平の理念にかない、相当であると考えられる。
オ そして、上記エにおいて、葬儀費用の額が相当額の範囲内を超える場合にはその超えた部分につき、また、葬儀費用を相続財産から支出することが著しく相当性を欠くような特段の事情が存する場合においては、当該事案における個別具体的な事情に照らして、事案ごとにその最終的な負担者を定めることとなるものと考える。
引用ここまで
なお具体的結論については次の記事参照
葬儀費用は誰が出す?兄弟間で分担は?