遺留分に基づいて、相続開始後に遺産から生じた賃料や家賃を請求できるか

遺産分割協議中の家賃や賃料はだれが取得」という記事では法定相続分にしたがった相続があった場合に、遺産から生じる賃料や家賃は誰が取得するのか?という点について解説しました。

今回は、法定相続分ではなく、「遺言」があった場合の賃料・家賃の帰属について、「遺留分に基づいて、相続開始後に遺産から生じた賃料や家賃を請求できるか」がテーマです。

事例から検討

たとえば、被相続人が亡くなった際、被相続人には子供であるAさんとBさんがいたとします。

被相続人は、全財産をAさんに相続させる、との内容の遺言を残していました。被相続人には500万円の価値のある駐車場不動産と500万円の預貯金があったします。

遺言に従えば、Aさんが全ての遺産を取得することになります。そして、駐車場からは月々5万円の賃料収入が発生しています。

他方で、上記のような遺言がある場合でも、Bさんは、遺留分という権利を有しています。上記のケースでは、Bさんは4分の1の割合で、権利を主張することができます。

そこで、たとえば、Bさんが遺留分を主張したとして、不動産から生じる賃料についても月々1万2500円を支払え、とAさんに主張できるか、がここでの問題です。

賃料の帰属について

上記のような遺言が無い場合、遺産分割協議中の不動産は、相続分に応じて相続人らが共有する状態になります。このことは、冒頭のリンク先記事で解説した通りです。

他方で、ある相続人に全財産を相続させる、という遺言がある場合、受遺者は初めから、被相続人の遺産を承継します。共有という状態になりません。

したがって、Bさんには、4分の1の分だけ、自分も駐車場を共有しているのだから、4分の1の分の賃料を支払え、とAさんには主張できないのです。

 

遺留分にかかる権利主張の方法

実は、かつての民法化においては、遺留分権利者による賃料請求は成り立ちえます。しかし、この論点については、改正民法において、取り扱いが変わることになります。

旧民法化 遺留分減殺請求

この点、旧民法化において、遺留分の権利主張は、遺産を遺留分の割合で分割しろ、という請求でした。

この旧民法化の遺留分減殺請求においては、これを行使した場合に不動産持分を取得することができました。

そのため、旧民法化の遺留分減殺請求においては、不動産の持分は遺留分割合におうじて初めから遺留分権利者のものだった、したがって、賃料も遺留分割合に応じて、受遺者は支払わなければならない、という議論がなりたちえました。

新民法化の遺留分侵害額請求

2019年7月1日に施行された新民法化においては、遺留分の請求方法が大きく変わり、遺留分の権利主張は、「金銭請求」として行うことになりました。

これを遺留分侵害額請求といいます。

参照 民法第1046条第1項
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

上記民法の規定にある通り、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する「金銭の支払を請求することができる」だけです。

あくまで金銭的な請求をするだけで、遺留分の権利sy長には不動産の持分を移す、という法的な効力がありません。

したがって、遺言の無い遺産分割協議の場面と異なり、遺留分権利者にはじめから「不動産の持分があった」との主張がなりたたないこととなります。

そのため、冒頭の事例に即して言えば、冒頭の事例で被相続人が2019年7月1日以降に亡くなったのだとすると、Bさんは、賃料収入を持分割合に応じて支払え、という主張をAさんにはすることができない、という結論になります。

>北九州の弁護士なら ひびき法律事務所

北九州の弁護士なら ひびき法律事務所

CTR IMG