今回は、遺産分割協議中の家賃や賃料を誰が取得するかについてです。
事例で検討
具体的な事例で考えてみましょう。
たとえば、被相続人が亡くなって、子供であるAさんとBさんが相続をしたとします。被相続人には、駐車場の賃料収入として毎月5万円の収益がありました。
被相続人には500万円の価値のある駐車場不動産と500万円の預貯金があったとします。
また、1年後に成立した遺産分割協議によって、Aさんが、駐車場不動産を取得、Bさんが500万円を取得したとします。
ここで、Aさんが駐車場を取得したので、遺産分割協議までに発生した賃料(60万円(5万円×12カ月))は単純にAさんが取得するのか、あるいは、Bさんも、駐車場賃料の半分をこちらに渡せといえるのか、というのが今回の問題です。
賃料の帰属
遺産分割協議中の不動産は、相続分に応じて相続人らが共有している状態です。
共有ですので、当該不動産から発生する賃料は、相続分に応じて、相続人らが取得できる、という整理となります。
この点、遺産分割が終わったら、不動産は相続の開始に遡って、初めから、遺産分割協議によって定まった取得者の所有物となる、という民法上のルールもありますが、これは取引の安全に関する規定であり、賃料の帰属については別異に考えられています。
最高裁の判断
平成17年9月8日最高裁判決は次のように判示しています。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
最高裁は、賃料というのは、遺産を使用することによって生じる権利であり、遺産そのものではない、遺産とは別個の財産である、としたうえで、賃料は、各共同相続人が、その相続分に応じて、分割単独債権として確定的に取得する、とされています。
また、遺産分割の効力は、相続開始の特に遡及するが、賃料の帰属については、影響しない旨、明示しています。
したがって、当該不動産から発生する賃料は、相続分に応じて、相続人らが取得する、という整理になります。
そのため、ある相続人が、遺産分割協議中、賃料をずっと受け取っていた、と言う場合、他の相続人は、自分の相続分に応じて、これを支払え、と請求することができます。
実際の清算方法
冒頭の事例で、Aさんが、賃料60万円を受け取っていたという場合、どんな清算方法が考えられたでしょうか。
遺産分割協議成立まであれば、たとえば、Aさんは、500万円の価値のある駐車場と賃料30万円を受け取り、Bさんは、500万円の預貯金と30万円の賃料を受け取るという遺産分割協議(私法上の合意の趣旨を含む)を成立させるのが、簡便だと思われます。
遺産分割協議成立後、Bさんが、駐車場の賃料の半分を請求するためには、別途、不当利得返還請求権などに基づき、Aさんに30万円を請求していくことになります。
Aさんがこれに応じない場合、Bさんは民事裁判などによる請求を検討することになります。
この点については次の記事をご参照いただけますと幸いです。
参照 遺産分割協議前・協議中の固定資産税は誰の負担?