今回は、相続放棄前に、公共料金の支払い・解約をしてしまった、という悩みについて。
上記のような悩みに対して、インターネット上の解説では、遺産からではなく、ご自身の預貯金から支払をした場合には相続放棄できるが、遺産から支払ってしまうとできない、光熱費にかかる公共サービスの解約をしてしまったら、相続放棄できなくなる、といった説明がされるのが一般的です。
たしかに、一般的な説明としてはこれで間違ってないのですが、実際、相続放棄前に、遺産から支払ってしまった、公共サービス解約してしまった、さあどうすればいいんだ、というところに焦点をあてているものはあまり見かけませんでした。
実際、公共料金を遺産から支払ってしまった場合
公共料金を支払ってしまった、と言う場合、有効に相続放棄はできなくなってしまうのでしょうか。
原則論・建前論
遺産から、公共料金を支払ってしまった、と言う場合、原則論・建前論をつらぬくならば、そこに処分性が認められ(単純承認とみなされ)、相続放棄は出来なくなってしまいます。
第921条1号【法定単純承認】
例外的な考えができないか、解釈論
上記の場合、相続人が遺産を引き出しているうえ、他の一般債権者(貸金業者等)と区分してお金を支払っている以上、相続放棄の有効性を否定する論理は、どうしてもいびつになります(他の一般債権者が不利益を被っている面が否定できない)。
相続の意思の発露とは断定できない!?
しかしながら、そこでは、公共料金あるいは携帯電話料金が僅少な場合に、遺産からこれを支払ったとして、これをもって莫大な負債を相続人に負わせることが果たして妥当か、というバランス論は浮上し得ます。
また、「債権者が不利益を被る」という点については、遺産から葬式費用・墓地費用・仏壇などの支出があったといても相続放棄を認めた裁判例との均衡において、必ずしも相続放棄の効力を否定する決定的な理由にはならない、との評価も与え得ます。
相続財産の処分をすることで「単純承認」とみなすとした法の趣旨は、相続財産の処分に単純承認の意思が含まれていると推定されること、処分を行った第三者の信頼の保護にあると考えられます。(最高裁昭和42年4月27日判決参照)
そして、遺族が、死後、最低限の事務処理をしてあげよう、という考えにいたることも、分からないではありません。
上記のような事情に照らしてみれば、僅少な公共料金につき支払いを行ったからと言って、相続の意思の発露とまでは断定し難く、絶対に相続放棄が無効なものと扱われる、とは限らないとの解釈が成り立ちえます。
相続放棄してみることを検討
そうだとすれば、公共料金を遺産から一旦支払ってしまったからという理由で、もう何もしないというのはどうか。
上記事情を前提にしてもなお、「これから相続放棄の申述をしてみる」ということを弁護士や司法書士などの専門家とともに検討することが選択肢に入ります。
放っておくと、熟慮期間の経過でいよいよ有効な相続放棄ができなくなります。
他方で、僅少な公共料金を支払ってしまった、というだけでは、まだ「有効に相続放棄ができる」という解釈も成り立ちえるのです(絶対とはいえませんが、相続放棄の効力が後になって否定されないという解釈が成立する余地がある。)。
そうだとすれば、一旦は、これからでも相続放棄をしてみる、ということを検討することが選択肢に入ります。
公共サービスの解約について
公共サービスの解約についても同じことが言えます。
むしろ、解約は保存行為として考える余地が大きいので、遺産から料金を支出した、というケースに比較して、相続放棄の有効性が否定されない余地が大きいとも言えます。
光熱費の公共サービスにつき契約を解約してしまった、と言う場合も、これから相続放棄をすることを専門家とともに急いで検討すべきです。
参考:相続放棄前に携帯電話を解約してしまった!これからどうしたらよい?
本稿は、公共料金を遺産から支払った場合や公共契約を解約した場合になお、有効に相続放棄ができる、ということを趣旨とするものではありません。
こうした場合でも、相続放棄の効力が有効と認められる可能性がないではない、そうであれば、一旦は、これから相続放棄をすることを検討してみてはどうか、という趣旨です。 また、この記事を読まれた時点で、まだ、遺産から支出していない、契約の解約をしていない、と言う場合でかつ、相続放棄が視野に入るなら、リスク回避の観点から、遺産から支出はしないこと、公共料金について解約手続をしないことを勧めます。 相続放棄をした相続人は、公共料金の支払義務を引き継ぎませんし、被相続人の契約を引き継ぐこともありません。 |