相続放棄前に携帯電話を解約してしまった!これからどうしたらよい?

相続放棄前に携帯を解約してしまった、どうしたらよいか、今回はこの悩みについてです。

相続放棄できなくなる、との説明

被相続人の遺産を整理している中で、電気・ガス・水道などの公共サービスを解約するとともに、携帯電話も解約してしまった、というケースは少なくないようです。

そして、法律事務所のHPなどでは、たとえば、次のような説明がされています。

「被相続人の契約していた携帯やスマホを解約すると、被相続人の「相続財産」の処分」として「単純承認」したこととなり、相続放棄ができなくなる可能性がある。」

なるほど、携帯解約前に、こうした解説に目を通していれば、相続放棄を予定していながら、解約することはないでしょう。

ただ、いざ、携帯解約してしまった後、上記の説明を見ても、これから何をしていいか分からないですよね。今回は、解約してしまったけど、どうしたらいいのか、という部分についての私見です。

ちなみに、上記説明中、「相続放棄できなくなる」というのは少し不正確です。

携帯電話の契約を解約してしまっていても、相続放棄の申述を裁判所に行うことはできます。そして、実体的には、相続放棄を裁判所が受理した場合に、これが有効か否かが問題となるのです。

 

携帯電話やスマートホンの解約の位置づけ

ここから多分に私見も混じりますが、有効に相続放棄できる、という立場で理由を考えてみます。

保存行為に該当するといえないか

形式的な判断を貫けば、携帯電話やスマートホンの解約について財産の「処分」に該当する可能性が高くなります。

他方で、携帯電話やスマートホンも放っておけば、多少なりとも費用がかかります。だれも使わない、使えない電話に金がかかるわけです。

したがって、この契約を解約することの性質・意味を考えるとき、少し苦しいですが、これは、「保存行為」あるいはこれに付随する行為であると見るべき余地がないではありません。

光熱費の公共料金にかかる契約についても、同様に「保存行為」と見る余地があります。

そして、仮に保存行為にあたるなら、解約をしたって、なお相続放棄は有効にできるわけです。

保存行為でなくても、処分に該当しないと考える余地はないか

また、裁判例の中には、遺産から葬儀費用を支出した行為について、「遺族として当然営まなければならない葬式費用に相続財産を支出するのは、道義上必然」であり、相続財産の支出をしても、「単純承認」の効果を生む処分には該当しないとする判例があります。

墓石や仏壇購入費につき、遺産から支出してもなお、相続放棄が有効とされたケースもあります。

参考:相続放棄:遺産から、葬儀費用・墓石・仏壇購入費用をねん出したケース

ここで大切なことは、「形式的には処分」に該当する行為があった場合でも、「単純承認の効果を生む処分」に該当しないとされる領域が存在することです。

そして、公共料金の契約の解約・携帯電話の解約は祭祀行為ではありませんが、遺族として、公共サービスを提供している会社や携帯会社(携帯会社も現在では公共性が強い)に迷惑をかけないように、と思って行う死後の事務処理であって、こうした事後処理をやらねばならぬ、と考える人の心情も十分理解ができるところです。

そうだとすると、携帯電話やスマートホンの解約しただけで、有効な相続放棄ができない、という判断をするのは厳しすぎるように感じられます。

多額な費用を要する葬儀費用の支出はよくて、単に携帯電話を解約するっていうのは駄目なのかよ、というバランス感覚が働くわけです。

ひとまず相続放棄の手続をとることを考える

このように考えてくると、相続放棄の有効性が絶対否定されるとは限りません。

たとえば、被相続人にたくさんの借金がある、しかし、やらねばならぬと思って相続放棄前に携帯を解約してしまった、という場合、まだ熟慮期間内であるならば、ひとまずは相続放棄の手続をとることを検討してみてはいかがでしょうか(その場合でも、携帯電話本体はきちんとしかるべき場所に保存しておくことが重要で、名義を変えて使うのは避ける)。

【相続放棄の申述書のイメージ】

携帯電話の解約を一度してしまったからといって、絶対に有効な相続放棄ができないとは言い切れません(もちろん、学説上争いがあるので、絶対に有効であるともいいきれませんが)。

他方で、放っておいては、相続放棄の熟慮期間が経過してしまい、いよいよ相続放棄が出来なくなってしまいます。

参照:相続放棄の熟慮期間~3か月を過ぎてしまった場合~

相続放棄をした後、その相続放棄が真実有効か否か(上記の例では、単純承認事由に該当するか否か)は、建前上、借金の請求を訴訟でされるなどした場合に、当該裁判で実質的な審理が為されます。

一方で、相続放棄をしておかないと、携帯電話の解約につき、あなたの主張が通る通らないに関わらず、お手上げとなってしまいます。

そうならないためにも、いったん携帯電話やスマートホンの契約を解約してしまった後でも、相続放棄の手続をとることにつき、弁護士や司法書士などの専門家に相談をすることを勧めます。

※本稿は、弁護士河合洋行の執筆・文責であり、多分に私見も混じります。また、当然のことですが、詐術的な相続放棄をすすめるものではないこと、念のため注記しておきます。

>北九州の弁護士なら ひびき法律事務所

北九州の弁護士なら ひびき法律事務所

CTR IMG