今回は、相続放棄後、放棄した不動産から賃料を収受した場合、法律上どう処理されるか、という点について解説します。
なお、相続の放棄や、その後の保存義務については、次のページで解説していますので、ご参照いただけますと幸いです。
民法921条
民法という法律は、相続放棄について次のように定めています。
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
- 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
- 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
- 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
今回のポイントは、この第3号です。第3号の本文は、相続人が相続放棄や限定承認をした後で会っても、遺産を隠したり、使ってしまったりしたときには、相続放棄は無効となり、単純承認したものとする、と規定しています。
典型例としては、相続放棄後に、遺産から預貯金を引き出して使ってしまったり、タンス預金を使い込んでしまった、という事例が挙げられます。
相続財産の消費とは
上記規定に言う相続財産の「消費」というのは、「ほしいままに、これを処分して価値を失わせること」をいいます。上記の例では、たとえば、預貯金を、自分の食費や生活費に充ててしまった場合、この「消費」に該当します。
他方で、財産の保全など、正当な理由があれば、財産を一部支出することも可能と考えられています。
たとえば、遺産の中に借地があり、毎月地代として、3万円を支出しつつ、当該借地を被相続人が10万円で又貸ししていた、というケースにおいて、月々10万円の賃料を確保し続けるために(借地権を継続させるために)、遺産または収益した賃料10万円のなかから、地代3万円を引き出し、これを支払うというケースでは、正当な理由あり、と判断される可能性が高いです(※ ただし反対説もあります。)
収受する賃料を懐に入れてしまった場合
では、上記の例で、残りの7万円を自分の懐に入れ、自分の生活費や事業資金として使ってしまった場合はどうでしょうか。
この場合は、賃料を引き出して費消した行為は上記「消費」に該当します。
したがって、一旦相続放棄が受理されていたとしても、個別のケースで争われれば、これは無効なものとして扱われます。
裁判例の紹介
最後に裁判例を紹介します。東京地方裁判所令和5年12月6日判決です。
この判決は、相続放棄をした者が、生活に困って、遺産から生じる賃料を収受して使ってしまったというケースで次のように述べています。
東京地方裁判所令和5年12月6日判決