相続放棄の相談を受けていて、「借金」問題に次いで、放棄の理由として多いのが、ずっと疎遠だった、関係性が悪いので被相続人の関係者や遺産と関わりたくない、というものです。
相続放棄の理由を書くことが求められている理由
相続放棄の申述に際して、理由の記載が求められているのは、裁判所において、一応、最低限度の実体審理をするためです。
すでに、遺産を受け取ったりしている、と伺われる事情がないかが裁判所での審理対象となっており、相続放棄の申述書にかかる記載を参考に、裁判所はさらに、具体的な審理を行うかを判断します。
特に問題がなければ、申述書を提出するだけで、相続放棄が受理されることも多々あります。
以下、簡単な記載方法を紹介しますが、相続放棄全般につき、万が一のための錯誤取消なども視野に入れるなら、どのような記載にするかについては慎重な検討・対応が必要です。
たとえば、大きな資産はなく、他方で、借金がたくさんあると考えて相続放棄した場合に、将来、実は大きな資産があり、他方で借金はたいしてない、と分かった場合はどうでしょうか。こうした場合、相続放棄につき錯誤を検討する必要があります。
ここで大事になってくるポイントの一つが、申述書に理由をどのように書いたかです。そうした事例は、稀なケースではあるものの、全くないではありません。
相続放棄の理由として「疎遠」だったと書く場合
相続放棄の理由として、「疎遠だった」と書くケースは、弁護士が代理して相続放棄の申述書を提出する場合でもしばしばあります。
たとえば、子が父の相続につき、放棄をするケースでは、「幼少期に母に引き取られて以来、父とは会っておらず疎遠だった」などと書くことがあります。もう少し心情を入れて書くなら、疎遠だった、そのため父に財産があるのかないのかも分からないが、何もかかわりあいたくない」などと記載します。
ご本人がご自身で提出される場合、たとえば次のような書き方が考えられます。
また、疎遠という程度を超えて、全く関係性が無い場合は、絶縁状態だった旨記載しても構いません。
相続放棄の理由として、「関わりたくない」と書く場合
相続放棄の理由として、「相続や遺産分割協議に関わりたくない」ということもあるかと思います。たとえば、他の相続人と折り合いが悪いなどの理由です。またケースによっては、ご自身の生活が安定しているから、遺産に興味がない、かかわりあいたくない、ということもあるかもしれません。
この場合も、その旨素直にかけば足ります。一例ですが、次のような記載が考えられます。
ここでは、2番と6番に〇をしていますが、このように放棄の理由につき、二つ書いても構いません。
提出後の調査について
上記のように被相続人と疎遠などの理由で申述書を提出した場合に、家庭裁判所がどのような対応をするかは、ケースごと家庭裁判所ごとに分かれているように思われます。
内容がほとんど同じ申述書を提出しても、ある家庭裁判所によっては、このあと照会文書(より詳細な記述を求められる)が来ることもあれば、そのまま素通りで、相続放棄が受理されることもあります。
もしかしたら、弁護士が付いている、付いていない、で運用を分けている家庭裁判所もあるかもしれません。
2026年現在、福岡家庭裁判所小倉支部に、弁護士が代理人として相続放棄の申述をした場合に照会書が来ることは基本的にありません。数年前までは、代理人が付いていたケースでも、照会書が送られてきており、相続人らの自署が求められていたので、弁護士はそのサポートをしていたのですが、近時、照会書そのものが来なくなりました。どこかのタイミングで運用が変わった可能性が高いです。