今回は、確定拠出年金の遺産性(相続財産性)についてです。
確定拠出年金には、企業型と個人型(iDeCo)がありますが、原則60歳まで引き出すことができません。長期にわたって、積み立てていくことになりますので、その途中で、加入者の方が亡くなることもありえます。
今回、確定拠出年金を積み立てていた方が途中で亡くなった場合に、その積立金が遺産(相続財産)として扱われるのか、という点を説明します。
遺産と固有財産
被相続人のある財産が遺産として取り扱われる場合、当該財産は、遺産分割協議の対象となります。また、相続放棄をした方はこれを受け取ることができません(参照:相続放棄について)。
したがって、ある財産が遺産に該当するか否かは、その財産を誰が取得するのか、に大きくかかわります。
確定拠出年金の積立金は、それ単体でみれば、遺産そのものとも考えられます。しかし。確定拠出年金法に基づくと、積み立てていた加入者が亡くなった場合の建付けは次のようになっています。
- 加入者が死亡した場合、加入者の遺族に、関連機関の裁定に基づいて、一時死亡金を支給する(確定拠出年金法28条、第40条、第73条)。
- 加入者が受取人を指定していた時にはその受取人として指定された遺族に、そうでないときは、法に定める順序によって、支給する(第41条、第73条)。
- 死亡一時金を受けることができる遺族がないときや、死亡一時金の請求が、死後5年間ないときは、死亡した者の個人別管理資産額に相当する金銭は、死亡した者の相続財産とみなす(第41条、第73条)。
確定拠出年金法の規定
企業型年金について
第二十八条 企業型年金の給付(以下この款及び第四十八条の二において「給付」という。)は、次のとおりとする。
一 老齢給付金
二 障害給付金
三 死亡一時金
第四十条 死亡一時金は、企業型年金加入者又は企業型年金加入者であった者(当該企業型年金に個人別管理資産がある者に限る。)が死亡したときに、その者の遺族に、資産管理機関が企業型記録関連運営管理機関等の裁定に基づいて、支給する。
第四十一条 死亡一時金を受けることができる遺族は、次に掲げる者とする。ただし、死亡した者が、死亡する前に、配偶者(届出をしていないが、死亡した者の死亡の当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下この条において同じ。)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹のうちから死亡一時金を受ける者を指定してその旨を企業型記録関連運営管理機関等に対して表示したときは、その表示したところによるものとする。
一 配偶者
二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって死亡した者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していたもの
三 前号に掲げる者のほか、死亡した者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していた親族
四 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって第二号に該当しないもの
2 前項本文の場合において、死亡一時金を受けることができる遺族の順位は、同項各号の順位により、同項第二号及び第四号に掲げる者のうちにあっては同号に掲げる順位による。この場合において、父母については養父母、実父母の順とし、祖父母については養父母の養父母、養父母の実父母、実父母の養父母、実父母の実父母の順とする。
3 前項の規定により死亡一時金を受けることができる遺族に同順位者が二人以上あるときは、死亡一時金は、その人数によって等分して支給する。
4 死亡一時金を受けることができる遺族がないときは、死亡した者の個人別管理資産額に相当する金銭は、死亡した者の相続財産とみなす。
5 死亡一時金を受けることができる者によるその権利の裁定の請求が死亡した者の死亡の後五年間ないときは、死亡一時金を受けることができる遺族はないものとみなして、前項の規定を適用する。
個人型の確定拠出年金(iDeCo)について
IDECOについても、企業型年金の規定が準用されており、同様の建付けとなっています(同法73条)。
第七十三条 前章第四節の規定は積立金のうち個人型年金加入者等の個人別管理資産の運用について、同章第五節の規定は個人型年金の給付について、第四十三条第一項から第三項まで及び第四十八条の二(資料提供等業務に係る部分に限る。以下この条において同じ。)の規定は連合会について準用する。この場合において、第二十二条及び第四十八条の二中「事業主」とあり、並びに第二十五条第三項及び第四項、第二十九条第二項、第三十三条第三項、第三十四条、第三十七条第三項並びに第四十条中「資産管理機関」とあるのは、「連合会」と読み替えるほか、同章第四節及び第五節並びに第四十三条第一項から第三項まで及び第四十八条の二の規定に関し必要な技術的読替えは、政令で定める。
確定拠出年金は受取人固有の権利
上記建付けのもと、確定拠出年金の死亡一時金は、受取人の固有の財産であって、遺産ではないという整理となります。したがって、遺産分割の対象にはなりません。

また、仮に、受取人となった者が相続放棄をしていたとしても、死亡一時金は、これにかかわりなく、受け取ることができる金銭ということになります。
ただし、注意が必要なのは、一定の場合には死亡一時金も相続財産とみなす、と法に規定されている点です(前記41条4項、5項)。4項は、死亡一時金を受けることができる遺族がない場合なので、遺産分割や相続放棄を検討する場面とはそもそも場面が違いますが、5項は、加入者の死亡から5年間、請求がないときには、死亡一時金は「相続財産とみなす」という取り扱いになっています。
この場合、死亡一時金も遺産として扱われますので、遺産分割の対象となるほか、相続放棄をした場合には受け取れない財産、ということになります。