アパートやマンションなど賃貸物件での自殺・事故死による相続人の責任

アパートやマンションなど賃貸物件での自殺・事故死による相続人の責任

弁護士として、数年に一回、非常に苦しい相談をうけることがあります。

その一つが、子がアパートで自殺をしてしまった、今後どうすればよいかといった類の相談です。

賃貸物件で自殺があった場合

まず賃貸物件で自殺があった場合についてです。

相続するか否かの判断が必要

被相続人が自殺をしてしまった場合、相続人らは、心情の整理とは別に、法律上の整理も考えなければなりません。

弁護士は、心情面での整理についてはなかなかお手伝いできませんが、法律上の整理については、最大限のお手伝いをし、相続人らの悩みが少しでも軽減されるよう仕事をします。

法律面での整理に関して、まず焦点となるのが、相続するか否かの判断です。

被相続人が自殺をした場合の責任

被相続人が他界をした場合、相続人らは、何らの手続もとらなければ、プラスの財産のみならず、マイナスの財産(借金・負債)も相続をします。

たとえば、金融機関からの借入金や保証債務などです。

これに加えて、被相続人が自殺をした場合、別途の責任が生じることを踏まえたうえで、相続放棄や限定承認の手続をとるか否かを考えなければなりません(参照:相続放棄について)。

大家に対して損害賠償義務が生じる

通常、アパートやマンションの賃貸契約においては、賃借人は、適正に疎物件を利用する義務を負い、当該物件の価値を損ねるような行為をすると損害賠償責任を負うことになります。

自殺についても同様に考えられています。

その態様をとわず、賃借人が自殺をすると、これにより、当該物件には心理的な瑕疵が生じて、今後賃貸をしにくくなる、賃貸をするにしても値をさげなければならない、といった損害が大家に生じます。

また、大家が当該アパートを売却するに際にも、値段が下がる場合があります。

こうした損害につき、被相続人は賠償をする責任を負う可能性があり、相続人らは、相続放棄をしなければ、当該債務をマイナスの財産として相続をすることになります。

事故死の場合はどうか

また、事故死であっても、ケースによっては、損害賠償責任が発生する場合があります。

この点に関し、東京地判令和5年3月23日判決は、バルコニーからの転落事故につき次のように述べ、事故死は当然には心理的瑕疵には該当しないが、一定のケースで心理的瑕疵が生じることを肯定しています。

【東京地判令和5年3月23日判決】
瑕疵とは、その目的物が通常有すべき品質・性能を欠いていることをいい、一般に目的物に物質的又は法律的な欠陥がある場合のみのならず、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的瑕疵がある場合も含むと解される。
そして、日時場所を問わず、日常的に人の死は発生しているから、賃貸借契約の対象となる不動産において人の死が発生したことをもって、必ずしも心理的瑕疵に該当するとは解されない。
もっとも、本件のように、バルコニーからの転落により死亡事故が発生するということは、必ずしも日常的とはいえず、その原因も不明であって、通常人が不安感ないし嫌悪感を生じることは否定できない。そうすると、本件事故は、心理的瑕疵に該当するというべきである。

事故死によって、損害賠償責任が発生する場合、当該債務も相続によって承継されるべき債務となります。したがって、相続人らは相続放棄などの手続をとらなければ当該債務を負担することになります。

相続放棄をしても連帯保証をしている場合、責任が生ずる

また、不動産の賃貸については、相続人が連帯保証をしていることもあります。

賃貸物件の連帯保証契約においては、通常、主債務者たる賃借人がおうべき賃料のほか、原状回復費用などが保証の対象となります。

また多くの賃貸保証契約においては、被相続人の義務違反によって生じた損害賠償債務についても補償の対象となっています。

この保証人の債務は、相続債務とは異なる別個の債務ですので、連帯保証人となっている相続人は、相続を放棄したとしても、保証債務に基づいて、大家に対して損害賠償責任を負うことになります。

連帯保証契約が有効であるとすると、相続人は相続放棄をしたとしても、損害賠償義務を免れませんので、大家との関係では、大家が請求する損害の額が適正か否か、が主要な争点となることが多いです。

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