借金・債務を相続させるという内容の遺言の効力

「すべての借金を相続させる」という遺言の効力

今回は、遺言書に、ある人に「借金を相続させる」と書かれていた場合の遺言の効力についてです。

法定相続人の一人にあてた遺言

法定相続人の一人に、「全ての借金を相続させる」と記載がある場合、その遺言書の効力はどうなるでしょうか。

借金というのは、被相続人の権利ではありません。相続に際して、包括承継により相続人が債務を承継するのはともかくも、借金は、遺言という被相続人の意思によって処分ができるものではありません。

これを認めてしまうと、債権者、つまり権利者は、遺言書で指定された人物からのみ借金を回収しないといけないということになりますし、指定された人物は、自分の意思にかかわらず借金を負うということになり、非常に不都合です。

したがって、法定相続人の一人にすべての借金を相続させる、という遺言は無効と判断されます。

法定相続分を指定・変更した場合

では、被相続人が、相続分の変更をした場合はどうでしょうか。

設例事例

たとえば、被相続人Aさんが1000万円の預貯金とクレジット会社に対する負債300万円の債務を残して他界した、Aさんの相続人には、法定相続分を2分の1ずつとする相続人が二人(BとC)いる、とします。

この場合に、Aさんが遺言で、Bの相続分の3分の2、Cの相続分を3分の1と指定したとします。

このケースにおいて、クレジット会社は、BさんCさんに、いくらずつ請求できるでしょうか。

法定相続分に従うのが原則

民法には、次のような規定があります。

民法902条の2
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

この、民法のルールに従えば、債権者は、法定相続分にしたがって、Bさん、Cさんに請求するのが原則となります(上記本文)。

このルールは、債権者があずかり知らない遺言によって、債権者が請求できる金額が変動するのは、債権者の保護にかける、という趣旨から設けられています。

たとえば、設例では、法定相続分の指定にかかわらず、クレジット会社は、Bさんに150万円、Cさんに150万円ずつ、権利を行使していくことになります。

ただ、債権者が、相続分に応じた債務の承継を承認した場合は、債権者自ら承認しているのですから、債権者の保護にかけることはありません。この場合、債権者は、指定された相続分にしたがって、権利を行使していくことになります。

 

法定相続人以外の者にあてた借金を負担させる旨の遺言について

上記において、法定相続人のひとりに借金を相続させる旨の遺言については無効という説明をしましたが、法定相続人以外の者に借金を相続させる内容の遺言があった場合はどうでしょうか。

単純に債務を相続させるとの遺言

まず、単純に債務を承継させる、という遺言は無効です。理由は上記と同様です。

負担付遺贈

では、たとえば、被相続人がAさんに財産を相続させる、その代わりに、クレジット会社に対する債務を負担せよ、という内容の相続があった場合はどうでしょうか。

少し悩まれるかもしれませんが、この場合も、クレジット会社としては、クレジット会社のあずかり知らないところで遺言の内容によって義務者が変わってしまうのでは困ってしまいます。

したがって、上記の遺言がある場合でも、クレジット会社に対する債務は、あくまで法定相続人が負ったままです。

もっとも、受遺者が、財産だけを受け入れて、負担を受け入れないというのはいかにも不合理です。

そこで、民法は、負担付遺贈の取り消しという制度を設けています。相続人は受遺者が負担部分を履行しないときは、「履行しろ」と請求し、それでも履行しない場合には、遺言の取り消しをすることができます。

民法 1027
【負担付遺贈に係る遺言の取消し】 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。 この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる
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