今回は、相続欠格と過失致死・傷害致死罪についてです。
相続欠格事由としての民法891条1号
民法891条1号は次のように規定されています。
【民法891条1号】
今回は、この規定の解釈についてです。
過失致死・傷害致死は相続欠格事由に該当しない
上記891条1号は、「故意に」、被相続人等を死亡するに至らせた、あるいは至らせようとしたことを要件としています。
通説において、この「故意」には「死亡する」にかかり、死亡につき、故意が必要とされています。
したがって、過失致死の場合、傷害致死の場合は、891条1号に該当しません。
大審院判断
傷害致死については、大審院時代の家督相続に関し、行為者が欠格者に該当するか否かが争われたことがありますが、大審院は、以下のように述べて(現代語訳 っ条文は当時の条文)、これを否定しています(大判大11.9.25)
「被相続人又は先順位者をしに至らすの意思なく、単に傷害の結果、その死を誘致したるものは、民法第969条第1号に該当せず】
その理由として大審院は、民法の規定は、沿革において、行為者が予期せぬ結果(死亡の結果)を招いた場合にまで、相続欠格者とあつかうものではない、故意に殺害に至るものと、予期せず死亡に至らせた者との間においては、その行為者の心情に差がある、という点を挙げています。
相続の場面では
上記のように、過失致死・傷害致死は、相続欠格には該当しません。
したがって、たとえば、被相続人を過失で死亡に至らしめたという場合、死亡に至らしめた者も相続権を有しますので、他の相続人らと共同で被相続人を相続することになります。
もっとも、過失であれ「死亡の結果」をもたらせたことは間違いがない場合、そこではたとえば遺族の慰謝料請求権などその他の権利と事実上、調整することになるものと思われます。