相続をめぐる典型的なトラブルの一つとして、遺産の使い込みがあります。
家族や親族が被相続人の生前、その財産を管理していたケースにおいて、当該管理をしていた家族や親族が、被相続人の預金や財産等を使い込んでしまったというケースです。
特に、生前、被相続人の判断能力が不十分な状態が長期に渡って続いていたような場合に、使い込みの金額が大きな額となることが往々にしてあります。
また、使い込みは、生前に行われる場合のみならず、被相続人がお亡くなりになった後、遺産を管理していた相続人の一人が勝手に遺産・預金等を使い込む、というケースも散見されます。
使い込みの例
たとえば、被相続人の子どもにAさんとBさんがいたとします。被相続人が他界した当時の遺産は500万円のみです。
このケースで、Aさんが、被相続人の生前、被相続人の財産を管理しており、どうしてもお金が必要となり、1000万円をつかいこんでしまっていたとします。
この場合に、遺産の500万円のみをAさんとBさんとで2分の1ずつ分け合うのでは、公平性に欠けることは明らかです。
Aさんの使い込みがなければ、Bさんは、遺産として750万円をうけとれた可能性がありますので、相続手続に際してはその清算が必要となります。
使い込みをめぐる争点
単純計算にはなりますが、上記のケースでは、Bさんが遺産500万円をうけとり、さらに、Aさんから、250万円をうけとれば、トラブルは解決するかもしれません。
しかし、実際のケースでは、問題はそれほど簡易には解決しません。
Bさんが、Aさんに対して「使い込みだ」と主張したとしても、Aさんからは、「使い込みではない」、「被相続人から贈与を受けた」といった主張がなされることもありますし、「被相続人のために使った」と主張されるケースもあります。
こうしたケースでは、銀行の取引履歴や病院のカルテ、Aさんの主張を裏付けるの証拠などを精査して、実体判断をしていくこととなります。
遺産の使い込みを解決するための手続
遺産の使い込みが発覚した場合、相続人同士の話し合いで解決できればよいのですが、得てして相手方が感情的になり、話し合いができない場合があります。
こうした場合に、使い込んだ金員の清算を求める手段としては、遺産分割調停あるいは訴訟手続が考えられます。
遺産分割調停
解決方法の一つとしては遺産分割調停があります。
遺産分割調停では、被相続人の他界後、相続人の一人(仮にAさんとします。)が遺産を使い込んだ場合、Aさんの取得分につき、相続分に基づいて算定されるAさんが受け取るべき相続財産から、Aさんが使い込んだ金額を差し引く、といった形での解決を図り得ます(民法906条の2参照)。
もっとも、「使い込んだという事実・金額などに大きな争いがある」場合や、「使い込みが被相続人の生前に行われていた」場合、遺産分割調停での解決は、事実上・法律上極めて困難です。
訴訟手続
使い込まれた金員を清算するために、しばしば利用されるのが、訴訟手続です。
そもそも、「使い込み」自体が違法であり、不法行為を構成するとともに、本来得られるはずのない利益を享受するものですから、不当利得ともいえます。
訴訟手続では、使い込みに対して、不法行為責任に基づく賠償や不当利得に基づく返還を求めていくこととなります。